2012年12月11日火曜日

セ大阪 クルピ監督コラム④

FELIZ! フェリース(ポルトガル語で“幸せな”)

王国 もう怪物は生まれない?

朝日新聞 2012年(平成24年)12月11日 火曜日


10月にブラジルが4-0で日本に勝った試合には、MFカカ(レアル・マドリード)ら教え子3人が出ていた。
地元開催の2014年W杯は優勝候補の筆頭に挙げられる。

世界ランクは13位と低いかもしれないが、最多5度の優勝を誇る国には関係ない。

11月下旬に、代表のメネゼス監督が解任された。
ロンドン五輪で銀メダルに終わったことが響いた。
いい仕事はしていたけど、色々な選手を使いすぎた。
後任はJ1磐田の元監督であるフェリペ・スコラリ氏になった。
正解だと思う。
短期間の決戦やトーナメントで力を発揮できる指揮官だ。

周囲に左右されずに、W杯本番までメンバーを7人前後は固定するべきだ。
組織を成熟させないといけない。
8強に終わった10年南アフリカ大会と同じ過ちを繰り返してはいけない。

僕も00年に代表監督の候補に挙がった。
でも、報道陣に「ロマリオを呼ばない」と余計なことを言って物議を醸した。
当時はまだ監督として経験不足だった。
その後、代表を率いて02年W杯で優勝したのがスコラリ氏。
「最高の選手だ」と言い続けて、本番直前にロマリオを外した。
それはそれで大騒動となったのだが……。

W杯ブラジル大会での注目はFWネイマール(サントス)。
怪物だ。
現在20歳。
これまでに挙げたゴール数はペレに近い。
メッシ(バルセロナ)を超える可能性がある逸材だ。
10代で子供も作ってしまったけどね。
昨年、サントスと契約を更新し、年俸は16億円とも言われる。

だが、そんな選手はごく一部。
サンパウロやコリンチャンス、グレミオなど6チームくらいは破格の環境だが、他では給料の未払いなど深刻な問題が起きている。

都市化が進んで、ストリートサッカーをする場所も減っている。
原石を磨くのではなく、ビジネスに徹する代理人も絡んでくる。

町クラブからスタートして、大きな夢を追うという道がなくなってきている。
サッカー王国から怪物が生まれる可能性は低くなっているのかもしれない。


コラム終わり


この4回シリーズのコラムの第2回では確か、日本の育成システムは素晴らしいというようなことを書いていたクルピ監督だが、今回はブラジルでストリートサッカーのできる環境が失われてきている状況を嘆いている。
日本の育成システムには、当然ストリートサッカーは含まれていない。日本の道路事情では、子供がそこでサッカーをすることなど不可能だ。

つまり、同じような育成環境について、それが日本の場合であれば賞賛し、ブラジルの場合であれば問題視しているのだ。

このことから、クルピ監督は、母国ブラジルのサッカーと、異国日本のサッカーを、別物として捉えていることが読み取れる。

これは理屈を超えた、感覚的な分類なのだろうとわたしは思う。
いわば、天然物と養殖物の違いに近いのではないだろうか。
どれほど養殖技術が進んでも天然物にはかなわない、「やっぱり天然物は違うね」の世界。

そういう視点で見てみれば、確かに日本の育成システムは“養殖的”だ。
求められているニーズに合わせて、効率的に選手を作り上げる仕組みになっている。
もっともこうした育成システムは、なにもサッカー選手に限ったことじゃない。
日本の育成・教育システム全般がこうした傾向にあるのは、誰の目にも明らかだ。
育成・教育だけではない。
ビジネスの世界もそうだし、個人消費の世界もそうだ。
どれも、自分が損をしないように、そして最も効率よく、最大の利益を得ようと選択し判断決定している。

しかしこの考え方には根本的に矛盾している。
全員が「損をしないように」選択をしたら、効率は下がり、結果得られる利益は小さくなるからだ。
初期段階であれば、みなが損をせず効率よく利益をアップすることも容易だろう。
しかしいずれそれは行き詰る。
誰かの利益は誰かの損になるし、ある部分の効率アップはある部分への負担増となってしまうからだ。
ちなみに「弱肉強食」の意味は、「優れるものが勝ち残り、劣るものは消え失せる」ではないことをご存知だろうか。
「弱肉強食」の意味は、「結果として、生き残ったものが強く、消え失せたものが弱い」というものだ。
つまり、騙そうが、裏切ろうが、ルールを破ろうが、少数を多数で襲おうが、後ろから刺そうが、空から爆弾を落とそうが、それこそ弱者を強者が踏みにじろうが、まったく考慮されない価値観、それが「弱肉強食」だ。
「勝てば官軍」と共に、わたしの大嫌いな言葉のひとつ、それが「弱肉強食」だ。
たとえ勝とうが賊軍は賊軍だ。
警察官を殺したら、そいつが警察官になるか? そんなわけないじゃないか。
「やられたのは、そいつが弱いからだ」 ←はあ? 何言ってんの? まず『狼王ロボ(実話)』を読んでから出直して来い。

かなり脱線したが、話を本筋へ戻せば、日本サッカーの今の「効率偏重育成システム」はいずれ、それもそれほど遠くなく、破綻するってこと。少なくとも、4、5年後には行き詰まりが表面化してくる。それはJリーグの人気低下となってまず現れる。
似たような選手ばかりの似たようなチームばかりのリーグを、誰が観戦に行こうと思うだろうか。
世界のトップチームと善戦するであろう日本代表戦の人気は衰えないだろう。
なぜなら、相手チームに個性や特徴があるので、その相対として日本にも個性や特徴があるように見えるからだ。
でも国内リーグではそうはいかない。

養殖物しかない寿司屋にしては、Jリーグチケットは高すぎる。


以上

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