2012年12月4日火曜日

セ大阪 クルピ監督コラム②


FELIZ! フェリース ②
香川に口酸っぱく言ったこと
J1 セレッソ大阪 レビー・クルピ監督

朝日新聞朝刊 2012年11月27日 火曜日


マンチェスター・ユナイテッドで(香川)真司が開幕スタメンを奪ったのは、驚きでも何でもない。
ただ、イングランドに行ってほしくなかった。
ロングボールを多用して、フィジカルで渡り合うのは醜い。
サッカーとはパスやドリブルを交えて、人々を魅了する芸術だ。
スペインのバルセロナとかレアル・マドリードで、美しいサッカーを体現してほしかった。

2007年にセ大阪の監督に復帰すると、すぐに当時18歳だった真司を先発で使った。
サッカーに年齢は関係ない。
才能があったから起用した。

1週間ほど練習を見て、ブラジルのサンパウロFCで、00年に指導した駆け出しの頃のカカ(レアル・マドリード)と同じくらいの能力があると確信した。
両足でシュートをしっかり蹴れるし、運動量も豊富で、足が最後まで止まらない。
何よりも得点への意欲があり、ゴール前に飛び込んでいく勇気があった。
サイドバックはともかく、それまでボランチをやっていたのが不思議でたまらない。

ダイヤの原石の状態の真司を、試合に出しながら、磨いていった。
並外れたシュート力はない。
シュートも初めは下手だった。
イメージはすごくいいものを持っていた。
だから、どのタイミングで、どのコースを狙うのか、あらゆる場面を想定して練習した。

ゴール数にはこだわるように、口酸っぱく言った。
数字を残したか、残していないかで決まる世界。
日本人は国民性なのか、数字への意識が足りない。
サッカーはあくまでもスポーツというとらえ方。
ブラジルでは正しいあり方とは思わないが、戦争。
生きるか死ぬか。
勝てばいい生活、負ければ惨めな生活が待っている。

J1で15~20得点を挙げれば、A代表に選ばれて、欧州への可能性が広がる。
キヨ(清武)、乾にも、真司の成功例を持ち出して、伝えてきた。
3人ともまだまだ眠った才能がある。
スピードに乗ったドリブルシュートが魅力の乾は左足の精度を、最高のアシストができるキヨはもっとゴールへの意欲を高めるべきだ。
真司はもう少しヘディングを練習した方がいいね。


おわり




数字にこだわるのは、地元街クラブにこそ重要だとわたしは思っています。

Jの下部や、名門と呼ばれて事実上Jの下部団体化しているジュニアチームは、ジュニアの大会での成績や勝利数さほどこだわらなくても、経営は成り立ちます。有望な選手候補が、向こうから足を運んできてくれるからです。

それに対して地元の街クラブはどこも選手集めに苦心しています。
ちょっと良さそうな子供は、それこそ進学塾を選ぶように、名の通ったチームへ電車を使ってでも通ってしまいます。
幼児教育系、スポーツクラブ系、フットサル場系のチームが台頭してきた昨今、昔ながらの地元小学校少年団系のチームの選手集めはますます厳しくなってきています。

ここは割り切って、8人制に特化したチーム作りを目指すのも悪くない方針だと思います。
11人がやっとのチームであっても、8人制であれば、ベンチに3人の余裕が生まれます。
練習に広い場所もいりませんから、照明のある小さな公園や広場を利用すれば夜間練習も可能になります。
コーチ役の大人が少なくても、ちゃんと目が届きます。
しっかりしたゴールがなくてもOK。
ゴールキーパーも、全員が交代交代でやることで、無用な不満を生じさせる心配もありません。
それにゴールキーパーの経験は、必ず得点感覚を伸ばしてくれますし、身体のバランス良い成長のためにもプラスになりこそすれマイナスには絶対になりません。
メンタルでも、ボールを怖がらなくなります。
ヘディングの競り合いで、亀のように首をすぼめる玉なしチキン野郎撲滅にはもってこいです。

サッカー協会は個人技の育成のために8人制を推進しているようですが、街クラブとしては、数字を残すために8人制へ積極的に取り組むべきです。
街クラブを取り囲む状況は、それくらい急速に悪化しているからです。

街クラブにとっては、生きるか死ぬか。
生き残れるか、消滅するか。
数字を残せば、成績を残せば、実際に試合を見ていない子供や親にも、そのクラブの存在が伝わります。
地元クラブの存在が伝われば、地元の子に地元のクラブを選んでもらえる可能性が高まります。
個人技の育成への注力は、Jや有名チームに任せておきましょう。
そのあたりのことはすべて、それなりの質の選手がそれなりの量集まってから考えましょう。

子供たちにとっても、確固とした数字が残れば、自信につながります。
そうして得た自信は、サッカー以外の人生にも生きてきます。

勝てば生き残れる。負ければ消滅する。
昨今の街クラブにとっては、まさに戦争。
それくらいの気持ちで、8人制に取り組むべきだと、最近のわたしは思っています。
それくらいここほんの1、2年で、本当に、街クラブの状況、特に北足立北部地区を含む埼玉県の少年サッカーを取り巻く状況は、激変しました。

これまで通りのんびりのどかに11人制をやっている場合ではないと思います。
とはいえ、選手にとっても、コーチにとっても、観戦者にとっても、サッカーというゲームにとっても、面白いのはあきらかに11人制の方なのは変わりません。
でも、そう言ってもいられない、それが現実。
日本サッカー文化のためには、決して望ましい方向だとも思えませんが、でも、これは、生き残りをかけた戦争なのです。

子供たちが、お金をかけずともちゃんとしたサッカーの真剣試合を通じて、思いっ切り泣いたり笑ったり、ときには悔しがったり怒ったりして、人生の貴重な子供時代を存分に楽しむために、地元の街クラブは絶対になくなってはならないとわたしは確信しています。

でもそのためには、まず指導者が己の意識を変えなくては。



ただなあ…、観ていてつまらないんだよなあ、8人制。



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