2012年10月26日金曜日

コーチとしての目線 具体例

 コーチとしての目線の例として、チャンピオンズリーグの試合を観ていたら、ちょうどいい場面があったので紹介します。

 その場面は、先日フジテレビで中継していた、マンチェスター・ユナイテッド対ブラガ戦にありました。

 ブラガが先制得点をあげるシーン。

 左サイドからのクロスを、ゴール前で待っていた選手がヘディングで決めました。

 解説の方は、このシーンを、DFのマークがずれたための失点だと分析していました。試合開始直後で、マークがはっきりしていなかったために、マークがずれ、ポジションを前に入られたのだと。

 でもそれは間違いです。

 そもそも、試合開始直後だからこそ、マーカーは細心の注意を払っていたはずです。
 マンUのCBであればなお更です。それもCLの試合です。開始直後だから緩んだ、なんてことは絶対にありません。そんな選手は、マンUに入団できません。

 ではなぜ、ゴールを決められてしまったのか。

 それは、クロスのボールの質を、ブラガの選手は知っていて、マンUの選手は知らなかったからです。

 それを意識して観てもらえばわかりますが、このクロスは、最後の方で急激に曲がって落ちています。野球の変化球で言うと、2階から落ちてくるカーブ、あるいはシンカーといった感じの球質です。

 ブラガの選手は、それを知っていて、マンUの選手は知らなかった。
 
 マンUの選手は、クロスが蹴られた直後、ぴったりそのコースにポジションを取っています。もしこのクロスが、通常の球質であれば、マンUのDFは有利な位置で余裕でクリアできていたはずです。

 ところがこのクロスがどんな球筋をたどるのかを知っているブラガの選手は、マンUの選手とはまったく違う位置を狙っていることがわかります。助走する体の向きが、マンUの選手のそれとは違うことからも、それはわかります。

 ボールは、ゴール付近まで接近したところで急激にそのコースを変化させます。
 ぐぐっと曲がって、すとんと落ちたのです。

 マンUのDFがあわててそれに対応しようと、競るポイントを修正しようとしたときにはもう手遅れ。
 助走十分にジャンプしたブラガの選手の万全な体制でのヘディングに蹴散らされてしまいました。

 もしこのクロスが1本目ではなく、マンUの選手がすでに体験していたのであったなら、この得点は生まれていなかった可能性がかなり高いです。球筋を予測して、対応できるからです。当然ゴールキーパーもそれなりの反応をするでしょうし。

 観客であれば、「マークをしっかりしろ!」で十分ですけど、もしあなたがコーチであれば、この失点の原因を、DFの集中力の欠如、としてしまうのは間違いです。

 集中していなかったように見えたのは、あるいは、集中していなかったプレーに見えたのには、それなりの理由があるということです。

 これはトップレベルに限った話ではなく、どんな年代にも当てはまります。
 まわりに誰もいなければ、子供はドリブルをし続けるものですし、ゴールにシュートするものです。
 それが楽しいからサッカーをしているんですから。
 でもそうしなかったとき、その原因は、その子だけにあるのではないんじゃないか、その子の周辺で何かが起こったのかも、あるいは起こらなかったのかも、そういう視点を常に忘れないことが、コーチには必要なんじゃないかなあ、なんて思う今日この頃なのであります。

 しかし、スロー再生でまで、「試合開始直後でマークがずれた」という解説を繰り返すあのフジテレビの解説者氏は、いかがなものかなあと率直に感じました。
 まあ、テレビ局のモニタが小さくて、よく見えなかったということなんでしょうね、きっと。

 とにかく、コーチであれば、「すごい、ひどい」ではなく「なぜ、どうして」を見つけ出す目を持って欲しいなあってことです。
 そういうことです。
 あと、この試合自体は、録画したものの最初の数分を見ただけで、まだ全体を見終わったわけではありません。もしかするともっといい場面があるのかもしれませんけど、たまたま出てきたこのシーンでもいいかと、とりあえず書いてみました。

 おわり

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