2010年11月22日月曜日

ブラジルに見る「決定力」育成法

サッカー王国ブラジルに見る「決定力」育成法
下田哲朗著 A・P・マリーニョ監修
2008年11月23日 初版第1刷発行
東邦出版 1333円

-----------以下抜粋-----------

◆実はストライカーが育たないのは日本だけの問題ではありません。ブラジルでも近年、好きなときに好きなだけ自由に蹴ることができる場所が少ない都会からは優れたFWが育っていません。最近のセレソン(ブラジル代表)の多くが、草サッカーを思う存分楽しめる郊外や田舎育ちなのです。アフリカの優秀なストライカーたちもサッカー教室出身ではなく、自由にいくらでも草サッカーができる環境に生まれた人が多いのです。欧州でもテクニシャンを多く輩出することで有名な旧ユーゴスラビア地域は子供が草サッカーを思う存分プレーできる空き地が多くあります。
◆日本の小学生には全国大会が用意されています。頑張れば日本一のステータスを手に入れられるのです。
(中略)
日本ではチームが優勝したこと自体がすごいことなのですが、ブラジルではそのチームから何人のプロ選手が育つかが重要なのです。
◆ブラジルのアマチュアプレーヤーのほとんどがブラジルサッカー協会への登録を行っていません。
日本の場合は小学生の頃から全国大会があります。これを仕切るには日本サッカー協会の力が必要となります。ですから日本の場合は日本サッカー協会へのチームおよびにプレーヤーの登録が必要となるようです。
しかし、ブラジルの場合は一番大きい大会でも州(日本でいう県)の大会で、ほとんどは市内レベルの大会です。ですからチームやプレーヤーをブラジルサッカー協会に登録する必要はないのです。
◆入団テストはそう簡単に合格できません。
(中略)
コーチは選手の素質を見抜く専門家です。今はまだただの石コロのようでも、磨けば将来宝石になる原石の場合もあります。それをテストで探し出そうというのです。
ですから「こうすれば合格する」というものはありません。クラブによって、コーチによって合格の基準は違うのです。そのためテストを受ける少年は、自分なりのセールスポイントを身につけて受験することが多いのです。
(中略)
しかし、専門家といえども才能の見極めに失敗することもあります。そのためテストに合格しても才能が伸びなかったために、後日辞めさせられる少年もいるのです。
◆テストを受けた子供の大半は落とされることになります。落選を教えるのは掲示板に落選者の名前を張り出すのでも、合格者の名前だけを発表するのでもありません。落選となった子供のところにコーチが行って、落ちたことを告げるのです。
でもコーチは冷たく「君にはサッカー選手になる素質がない」とか「下手だから」などとは滅多に言いません。多くの場合は「残念だけど、うちのチームのカラーには合わなかった。ほかのクラブならうまくいくかも」というような表現をします。
これは子供たちの夢を壊さないということだけではありません。たまたまコーチがその子の才能を見抜けなかっただけで、将来すごい選手になる可能性もあるからです。ブラジルの有名な選手でもテストで落とされた経験がある人はたくさんいます。その落選のときにコーチから「君はサッカーに向いていない」と冷酷に言われていたら、その時点でプロになる努力を止めてしまったかもしれないのです。
(中略)
ブラジルでは草サッカーを見ているおじさんも、プロのクラブのコーチも子供たちを育てようと温かい目で見ているのです。
◆勝とうとすると失敗が許されなくなります。でも成長する過程でミスは付き物です。勝とうとしてミスを怖がれば挑戦する気持ちがなくなってしまい、最終的には個人の能力が伸びなくなってしまいます。ブラジルでどのチームも参加できる全国大会が開かれない理由は、国土が広く移動が大変だからです。でも結果的に全国大会のないことが、若手が育つ一因となっているようです。もっと年齢が低ければなおさらです。ブラジルでは試合は頻繁に行われます。子供たちは勝とうとして頑張ります。でも、子供にプレッシャーのかかるような大会は開催されないのです。
日本には小学校の頃から全国大会があります。この大会で勝つことを目指しているチームは数多くあります。そのチームは勝つためにミスの少ないサッカーをするケースが少なくないようです。難しい技術ができるようになるには失敗は付き物です。ミスを減らそうとすると簡単なプレーばかりをやることになります。そうすると大人になってからも簡単なことしかできなくなってしまう可能性が高くなるのです。
◆プロ予備軍の監督は当然プロフェッショナルです。査定次第では高額な給料をもらえる場合もあれば、解雇されてしまうかもしれない厳しい世界です。では、クラブは監督の評価を何によってするのでしょうか?
それは『上のクラスに何人上げたか』によって評価します。試合の勝率はまったく関係ありません。大会での順位も査定に入れません。練習方法も評価の対象にはしません。優秀な選手を育てることのみがプロ予備軍の監督の役割だからです。
また一般の人たちも同じ評価の仕方をします。そのクラブのU‐15チームやU‐19チームが良い戦績であったとしても評価の対象にはなりません。子供たちもそれでそのクラブへ入ろうとは思いません。少年たちはプロの選手になりたいわけですから、多くのプロ選手を育成しているクラブを目指します。
(中略)
プロになれる素質を持った抜群にうまい1人とあまりうまくない10人のチームよりも、まあまあうまい11人のチームのほうがチームの戦績は良くなることが多いのです。前者を選ぶブラジルと後者を選択しがちな日本では将来に差が出てくるのは当然かもしれません。
◆プロの経験豊かなコーチが「この子はセンスがある。将来伸びるはずだ」と判断しても実際にはそれほど伸びないこともあります。逆に16才の時点では「センスがない」と判断された子供の中に17、18才になると頭角を現す少年もいるのです。
これは『選手が伸びるのは個人の持っている潜在能力の大きさ』ということを証明しています。もし、練習方法が選手の能力を伸ばすのならばプロ予備軍で同じ練習をしている選手は全員上に上がれるはずだからです。
ただし、成長するのは個々の能力によるところが大きいのですが、才能の芽を摘み取ってしまうのは簡単です。良くない指導者の下でプレーしているとそういうことがよく起こります。植物の栽培と同じで、育てるのは丹精込めて気長にやらなければなりませんが、破壊するのは一瞬で完了してしまうのです。
日本ではうまくなりたければ有名な高校やクラブに入れるのがいいと考える人も少なくないようです。確かにうまい人たちの中でプレーすれば能力を引き出してくれる可能性は高いでしょう。ただし、そのチームに入れなかったからといってあきらめることはありません。サッカーを楽しんでいればいつか才能が開花することもあるのです。
◆若手選手の大会は大騒ぎしないのがブラジルの特徴です。
1つは若いうちに注目を浴びてしまうと、その選手がミスを怖がりチャレンジをしなくなってしまうからです。
挑戦しなくなると、もうそれ以上のレベルアップは望めません。
◆今の日本のサッカーを見ていると特徴のある選手があまり見当たりません。どの選手もうまいのですが、プレースタイルは同じように見えます。
(中略)
最近の日本の少年サッカーを見ていると決められた指導方法があるようで、どこのチームも同じような練習で子供たちを型にはめているように感じます。もし、同じ型にはめているのだったら、同じようなプレーヤーに成長しても不思議ではありません。
◆ブラジルのサッカー格言
・パスは、サイドの選手やフリーな選手じゃなく、走り込んだ選手に出せ。
・ヘディングするときはボールを落下地点で待つな。後ろから走り込め。
・シュートは、GKの左右を見て、ゴールが広く空いている方を狙え。
・(アフリカバージョン)ゴールはニアサイドのゴール天井を狙え。
・こちらの都合ではなく、相手の弱いところを攻めろ。
・ドリブルとはボールを運ぶことではなく、フェイントを使って相手をかわすこと。
・考えたときにはもう遅くなっている。直感でプレーしろ。
・フェイントで大切なのはタイミング。




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