関節は複数の骨が決まった方向・角度で動くように出来ていて、その骨同士がくっついているのを支えている働きをしているのが靭帯(じんたい)というベルト状の繊維組織である。
捻挫(ねんざ)とは、関節が正常範囲以上に動かされたとき、または本来の動きの方向とは異なる方向へ強い力で動かされ、支えている靭帯が部分的または不完全あるいは完全に切れてしまった状態を言う。
実は、従来の、
・サッカー選手にとって、捻挫はケガに入らない。
・温湿布(サロメチールを含む)して、よくマッサージして、血行をよくすれば治りが早い。
・テーピングすれば靱帯の代わりになるので、すぐいつも通りにプレーしても良い。
・腫れが引いたら、関節が固まらないように、動かすべきだ。
といった類(たぐい)の治療法は完全な間違いなのである。
「そんなことは常識だろうが」という指導者、保護者、当事者の方がほとんどであろうとは思うが、念のため、ここへ正しい処置について記しておく。
【正しい治療法】
捻挫をした直後の48時間は、RICEという応急処置を施(ほどこ)さなければならない。
R(レスト) =安静
I(アイシング) =冷却
C(コンプレッション)=圧迫・固定
E(エレベーション) =挙上(心臓の高さよりも上に)
「神棚に供えたご飯が冷めてカチカチになった」というイメージで覚える。
神棚=安静、供える=挙上、ご飯=RICE、冷めて=冷却、カチカチ=圧迫・固定。
怪我をした直後は、内出血、炎症があり鋭い痛みや腫れが出る。
この炎症を抑えるために、最低48時間はこのRICEを行う。
この処置により、怪我の治癒期間が“格段に”早くなる。
【具体的な処置】
足首の捻挫の場合、足首を内側にひねる場合が多い。
このケースでは、外くるぶしの前か下を痛めたことになるので、ここを冷やす。
外側にひねった場合は内くるぶしの真下を傷めることが多いので、この部分を冷やす。
一回30分程度。
これが終わったらいったん止め、1~2時間の間隔をあけてまた冷やす。
間隔時間はケガの程度によって違ってくるが、それほど神経質にならなくても良い。
腫れている、熱を持っている状態というのは、細胞が破壊されているという異常事態に対して、体が懸命に対処している状態だととらえて欲しい。そして冷やす(内部の熱を外部に排出させる)ことには、それをサポートするという意味がある。つまり逆に考えれば、冷やさないでいるということは、自分の体の細胞が破壊されていることを自分が手助けしていることになるのだ。アンパンマンが、「腹減った」といって自分を食べているようなもの(違うかな?)だ。
冷やしたら、足首を直角にした状態で固定。
柔らかいサポーターよりも包帯などでキッチリ絞めたほうがよい。
ケガをしたら、温めてはいけない。
同じ理由から当然入浴は避ける。患部を揉んで(マッサージして)もいけない。
この応急処置をすることで、痛みは格段に早く引く。
【要注意!】
二三日して痛みが引いたことで「もう治った」と勘違いしてはいけない。
この段階では、間違ってもまだ固定をはずしてはいけない。
ここからの治療こそが、後遺症、つまり捻挫を“クセ”にしてしまうかどうかの分かれ目なのだから。
上でも書いたように、各間接には、関節を支えている靭帯という繊維性の「バンド、帯(おび)」のような組織がある。
そして繰り返しになるが、関節に力がかかり、この靭帯が切れてしまうのが捻挫だ。
この靱帯は、動かない状態で固定していても、再生するのにはおよそ2週間の時間がかかる。
動かないように固定しておいて2週間だ。
もし固定を解いてしまったら、この時間はさらに必要となる。
骨の成長について書いたときにも触れたが、細胞が増殖する(代謝が活性化する)のは、体が休息しているとき、つまり静かに安静にして、体温がやや低くなっている状態の時だ。
動かして体温や筋肉の温度が上がってしまうと、細胞のモードは成長ではなく活動の方に入ってしまい、エネルギーもそらに回ってしまう。
また、別の悪影響もある。
痛みが引いたからといって数日で固定をはずしてしまうと、ようやく少しくっついた靱帯が再びはがれてしまうことになる。
完全に固着すれば、強度を増すモードに変わるはずだった細胞の成長が、「まだ届かない。まだ届かない」と、ダラダラと伸びるモードのまま成長を続けてしまうことになる。
これでは靱帯の長さが、必要以上になってしまう。
伸びてしまった靱帯は、自然には再び短くなることはできない。
靴ひもがゆるゆるだとすぐ靴が脱げてしまうように、本来の長さよりも伸びてしまった靱帯は、関節の可動域を「悪い意味で」大きくしてしまう。
関節を囲んでいる全方向の靱帯がバランス良く長くなったのなら良いのだが、一方向の靱帯だけが長くなってしまうと、関節をささえる力のバランスが崩れ、捻挫を再発しやすくなる。これが「捻挫がクセになった」という状態だ。
ちなみにこうなってしまったら、ちゃんと治すには外科的な処置しかない。
つまり、ゆるゆるに伸びた靱帯を短くする手術をするということだ。
こんな大事(おおごと)にしないためにも、面倒だと思わず、捻挫をしたら関節の固定を続けるべきだと私は確信している。
捻挫をしたら RICE。
神棚にお供えしたライスが冷えてカチカチになった様子をイメージして、その通りに処置してあげて欲しい。
宜しくお願いします。
おわり
!重要補足!
まず大丈夫だろうとは思いますが、万が一誤解されていると嫌なので、一応補足します。
上記の内容は「サッカーを楽しむため」ということを大前提にした上で紹介しています。
捻挫をしたら、患部をギブスで固めて天井から吊してベッドに2週間寝ていろ、なんてことは言っていないつもりです。サッカーができなくては、治療をする意味がないですから。
サッカーをしながら、後遺症もなく可能な限り最短時間で治療する方法を書いたつもりです。
まとめれば、痛みと腫れが引いたからといって、テーピングもアイシングもしないでサッカーをしてはダメですよ、という事です。
ピッチングを終えたプロ野球の投手が、肩を大きいアイスバッグごとテーピングでグルグル巻きにして、がっちり固定している姿をテレビで見たことはありませんか? あれも同じ理屈で、要は、練習後に故障している関節部を冷やして固定するのはスポーツ医学の基本ですよ、という事なんです。
サッカーの場合は、間接に外部からの予期しない力が加わる可能性の高い競技ですから、固定はプレーの後だけではなくて、プレー中もするようにします。
また、片足首を固定された状態で、どういうプレーや動き、体の向きなどにしたらパフォーマンスが落ちないのかを考え、工夫することも、サッカーを楽しむレベルを向上させるいい訓練になります。
ピッチ状態が悪い、あるいは体格的に差がある、等の条件があるゲームと同じように、限定された状況でどうやって勝つか、不利を有利に変えるか、を考えるのがサッカーの楽しさの最重要要素なのですから。
結論
捻挫は、サッカーをしながら治しましょう。
捻挫しながらするサッカーも、また楽しいものです。
ホントのおわり
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