2010年4月28日水曜日

フレーミング効果と少年サッカー

コーチがある選手に向かって、
「おまえはヘタクソだから試合で使わねえんだよ」
というのはあまり感心しない。親御さんたちからクレームが来るかもしれない。
でも、
「おまえがあと30パーセント、キックの精度を上げてくれたら、いい戦力になるんだけどなあ」
という言い方をすれば、その子は夜の公園で自主特訓をするかもしれない。

このように、表現のされ方、提示のされ方が、受けとめ方に大きな影響を及ぼすことを「フレーミング効果」という。


試合のハーフタイム、0-3で負けている状況で、はたしてなんと声をかけたら子供たちは奮起するのか。
「後半4点取れば逆転だぞ! 行ける行ける!」
というよりも、
「前半、うちにはシュートチャンスが6回もあった。後半は強引と思っても、思い切って打っていけ。まずは立ち上がりに2本シュート。これでいこう!」
の方が、子供たちは前向きになる。
前者だと、頭に残るのは「0-3で負けていること」「自分たちが勝つためには、後半に4点も取らなければならないこと」だ。つまり「数字」が残る。
対して後者では、「ぼくたちには6回もシュートチャンスがあったんだ(それが入ってたら6-3で勝ってるじゃん)」「とにかく立ち上がりに2本シュートするぞ!」。これらは、「差」ではなく、「方向」を提示して視点を変えている。

0-3という現実はどうすることもできないが、そこから子供たちの視界(フレーム)を「シュートチャンス数」だとか「後半に自分たちがやるべきこと」へと動かしてやれば、それを受けとめる子供たちのモチベーションは、大きく影響を受ける。

逆に注意を与えるときでも、
「ボールを持ちすぎるな」
では、ボールをキープすることがマイナスであり、すぐけりかえすことがプラスかのような受け取られ方をしかねない。
だからこういうときは
「相手は切り替えが遅いから、ボールをうばったら裏をねらっていこう」
と伝えてやる方が、結果としてうまくいくものだ。
「自分たちが遅いから急ぐ」のではなく「相手が遅いから、そこをつくために急ぐ」とすれば、子供たちは積極的にプレースピードを上げようとがんばる。マイナスのまったくない、すべてがプラスにつながる指示だからだ(マイナスは相手)。



フレーミング効果には「初期値効果」というものもある。
納豆に付いてくるタレを、つい全部使ってしまうことも初期値効果である。この場合の初期値は、付いてくるタレの量になる。
人間は、与えられた状態・状況(初期値)に対して、積極的に判断しようとしない。
考えること、変えることは「面倒くさい」からだ。生きる上での「負担になるからだ」といってもいい。
本来自然では、現状をあるがまま受け入れるしかない。
手にした木の実を、ちょっとすっぱいからとか、大きすぎるから、などという理由で捨てていたら、その個体はとうに餓死している。
器を口に合わせるのではなく、口を器に合わせるのが、自然なのだ。
それが初期値効果となって、今も私たちの判断に影響を及ぼしている。

これを練習に応用するとすれば、要求する基準の設定を、はじめからやや高めにしてしまうことなどが考えられる。
きつく思えても、知らず知らずのうちにやがてそれは「初期値」として受け入れられてしまう。
初期値となってしまえば、それはちっとも「きつく」なんかない、当たり前の基準となる。
(もっとも、初期値があまりに高すぎると、はなからあきらめてしまうので、そのさじ加減こそがコーチの最も重要な仕事なのではないかと私は考えている)

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