2010年4月30日金曜日

極端回避性と少年サッカー

小売チェーンなどでは常識となっている手法のひとつに、売りたい商品を極端に高いものと極端に安いものでサンドして陳列するというものがある。
これは「後悔したくない」という心理をついたマーケティングの手法で、この心理のことを「極端回避性」と呼ぶ。
高いものを買って、後でそれほどじゃなかったら損するなあ。
安物買いの銭失いは嫌だなあ。
まあ中間を選んでおけば、もし損をしても、そのダメージは最悪ってことにはならないだろう。
と考えて中をとってしまうのが人間だ。

そもそも人間の「選好」は、常に揺れ動く基準によって行われている。
ナイキとアディダスのスパイクを並べて見ていたときには、ナイキの方を買おうと思っていたのに、そこでアシックスのスパイクにも良いのがあると気づくと、う~んとまた考えて、いろいろ見くらべると値段・デザイン・履き心地共にアディダスのスパイクが良く思えてきて、よしとアディダスの持ち替えてレジに向かっていく途中で、ディアドラの特売品が目に付き、立ち止まってもう一度良く考えてみると、最初の選択が一番正しかったように思いなおして、またナイキのスパイクを取りに戻る、なんていう経験は誰しもおぼえがあるものだ。

このように「選好の基準」に確固たるものを人間は持てない。
選択肢が増えたり、選ぶ順番が変わったりすると、何を選ぶかが変わってしまう。
これを「選好の逆転」という。

さらにもっと選択肢が増えたりなんかすると、もう何が何だか、どんな基準で選んだらいいのかわからなくなり、選択結果は堂々巡りになる。

今の車じゃあ子供らの送り迎えに小さいなあ、と車を買い換えようと思って考えはじめる。
ふつうにミニバンにしようかな……でもミニバンはカッコワルイんだよな。
ツーリングワゴンにするか……FFはやだな。やっぱ4WDだろ。
レガシィか……でも新型のレガシィはデザインがなあ……
アテンザのワゴンがカッコイイんだけど……FFだしなあ。
アウディのクワトロは高いし……
オデッセイならミニバンでもカッコイイかも……でも今さらオデッセイっていうのも、何だかなあ。
MPVなら乗ってる人も多くないし……でもマツダなんだよなあ。4気筒の上に燃費もそんなに良くないし。
燃費っていえば、レガシィがいいらしいんだけど……あのカッコウがなあ。
ストリームのRSにするか。あれなら7人乗りでデザインもいいし、走りも悪くない……けど、うじゃうじゃ走ってるんだよなあ。
いっそのことフリードにするか……フリード……フリードねえ。
フリードに乗ってたら、絶対に「自分は車好きです」とは言えんよなあ。
俺の男としての何かを捨てることになるような気がする……
でも子供らの送り迎えがなあ……
燃費もなあ……
値段もなあ……
走りも、なあ……

どんな選択にもある程度の後悔はしたくないが、選択肢が多くなりすぎると選択そのものにも支障をきたすようになる。
そして考えることを放棄し、選択肢の中から極端なものをのけ、無難な線でまとめようとしてしまう。
それが人間だ。選挙のときなどにも、この習性が強く影響を及ぼす。

人間は状況や、時には自分の都合に合わせて頭の中で勝手な理由付けをして、選好の基準を変えてしまう。

練習メニューを組むときにこのことを考慮しないと、子供たちはいつしか無難なプレーばかりをするようになってしまう。
子供たちの発想の幅を狭めないためにも、指導者たちはその練習の際に子供たちはどんな選択肢を持っているのか、どんな基準で選好しているのかに注意を払わなければいけない。
自由にプレーさせるとは、無限に選択肢を与えることではなく、どこまで選好の幅を広げられるかなのだから。

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