2011年4月4日月曜日

すべては子どもたちのために。

2011年 平成23年 4月2日(土)
朝日新聞 オピニオン 耕論
3・11再起

冨山和彦(とやまかずひこ)
経営共創基盤CEO
1960年生まれ。東大法学部卒。著書「挫折力」「会社は頭から腐る」など。



すべては「子どものために」

私も当事者になりました。
福島、茨城、岩手の三つの地方バス会社がうちの子会社です。
従業員2100人、バス1200台。
自ら被災しながら現地はすぐに運行を再開し、原発周辺からの多数の住民待避や、医療チームの搬送にも対応しました。

でも燃料が足りない。
私は官邸や各官庁、知り合いの政治家に訴えて回った。
なのになかなか動かない。

震災は3月11日、政府が石油備蓄の取り崩しを発表したのは14日、さらに大幅な取り崩しの決定は22日でした。
この間、全国で買いだめが進んでしまった。
寒冷地で広域激甚災害が起きたら、燃料が被災者の死活問題になることは明明白白です。
なぜあんなに時間がかかったのか。

私が直接、政治家や官僚、企業と掛け合って痛感したのは、彼らエリート層の資質の問題です。
危機に直面しているのに、決めるべきことが決められない。(※)
判断することを避ける。
なんなんだこれは、と思いました。

「上と相談する」「県からの要請が来ていない」「要件に該当しない」。
そんな反応ばかりです。
保身とメンツと責任転嫁。

指示や命令も、いろいろなところがばらばらなことを言ってくる。
行ってみたら、その通りになっていない。
こちらから問題を提起したら、ピンボールマシンのボールのようにあちこちに飛んでいってしまう。

燃料や物資については、政府が早々に被災地でない地域に向けて「しばらく我慢してほしい」と訴えればよかった。
原発から30キロ圏内の扱いや、野菜、飲料水の汚染についても「絶対安全とは言えないが、かなり安全」なんていうのは全然だめ。
白か黒か言わないと人は動けません。
でも、びびったんでしょうね。

私たちはこういう「リスクを取れない、判断できない」人たちを長い間、「エリート」として政と官と民のリーダー層に据えてきた。
その結果、この国は頭から腐っているんじゃないか。
そんな実感があります。

彼らの多くは東大をはじめ一流大学出です。
成績優秀、人格温厚、調整力があり、みんなにいい顔をして組織の階段を上がっていった。
でもいざ危機に面したら、批判をこわがり、決められない。
逃げる。
だから物事が進まない。

決断とは一部に犠牲を強いることです。
できない人にリーダーの資格はありません。
有事に判断を先送りする人間が、平時に決断できるわけがない。
官公庁、企業、政党は人の評価をやり直したらどうでしょう。

修羅場の中で、政官財の誰が役に立ち、誰が役に立たなかったか、逃げたか。
記者のみなさんは見ていますね?
国民はそれを知りたい。
あとで総括して報道してほしい。

これからの日本再興で一番大切なことは、すべての政策やプランを「子どもたちにプラスかマイナスか」で判断することです。
「国は何をしてくれるか」ではなく、「あなたは国の未来のために何ができるか」を問うこと。
それを国民に問う勇気のあるリーダーを選ぶこと。

だから町づくりも、さらには国づくりも30代までの若い世代に任せたい。
50年後にも生きているだろう彼らが、未来を決めるべきです。

それより上の世代は、子どもたちのためにどれだけ犠牲になれるか、当然と思っている既得権益をどれだけ捨てられるか、が問われる。
年金受給権も、医療保障も、あるいは年功序列や終身雇用も。
それが大事です。
すべての政策や復興計画は、子どもたちの未来を軸に考えていく。

うちのバスは止まらずにすみました。
少数ですが、結果が出るまでやるべきことをやり通した政治家や官僚がいた。
さらに、心ある運送業者が自分たちの分を分けてくれるなど、現場の助け合いのおかげです。

現場は立派です。
うちの連中のやる気と献身には涙が出ました。
震災からわずか5日後に、盛岡から激甚被災地の宮古に路線バスを復活させたんです。
その第1号に、いかにも今どきの若者が、支援物資をたくさん抱えて乗り込んできた。
満席です。
草食系なんてとんでもない。

日本の強みは、我慢し自己犠牲をいとわない、一般の人々です。
そして現場の力。
自衛隊も消防も立派です。
役所も課長以下や自治体の現場がよくやっている。

会社も国も、破滅的な事態が起きると、隠れていたいろいろな問題がいっぺんに出てくる。
これはある意味チャンスです。
日本の未来へのテコにしたい。
勝負はこれからです。
(聞き手 編集委員・刀祢館正明とねだちまさあき)
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※「決めるべきことが決められない」
文脈からすると、筆者は「決めなければならないことを、決めることができない」という意味でこの文章を用いたようだが、私としてはむしろ「決めなければならないことがなんなのか、その優先順位を決定することすらできない」と解釈した方が、実態をより的確に突いているように思う。


「保身とメンツと責任転嫁」と「びびった」というキーワードは、現政権を表現するのにまさにピッタリ。

統一地方選で、首長選の候補者でもない議会議員選の候補者が、与党の党名を隠すっていったいどんな政権なんだ?

政治家なんて中高年以上の年寄りばかりなんだから、「念のため」に退避勧告した地域へもっともっと入っていって、正しくて力強いメッセージを世界に発信してくれよ。

頼むよ。

東京の官邸に引き籠もったままじゃあ、どんなに芝居がかった表情で立派な言い回しを駆使したって、ただの口先だけの口達者な、いざとなったら真っ先に逃げ出す偽物政治家にしか見えません。

ホント、本当に、マジで、お願いしますよ、日本政府さま。

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