2010年12月7日火曜日

ハートは熱く、頭は冷静に

2010年 平成22年 12月2日(木)
朝日新聞×モーニング コラボ企画
40歳の教科書2 自分の人生を見つめ直す

信州大学准教授 菊池聡(きくちさとし) 1963年生まれ
著書『超常現象をなぜ信じるのか』講談社、『「自分だまし」の心理学』祥伝社、他。
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心の危機を乗り越える「自分だまし」の技術を


一般に、うつ傾向を持つ人は物事をネガティブにゆがめて解釈する、とされています。
なんでも悪いほうに考え、無力感に襲われ、ときには破滅的なほうへと進んでいく。
たしかに、うつにはそうした傾向が強く見られます。

しかし最近、専門家の間で「うつの人は物事を誤って解釈をしているのではなく、むしろ誰よりも正しく認識しているのではないか?」という議論が出てきました。
そして「精神的に健康とされる人こそ、じつは物事を無意識のうちにゆがめて解釈しているのだ」と。
この認識のゆがみのことを、心理学では「ポジティブ・イリュージョン」と呼びます。

たとえば人は、自分のことを平均以上の人間だと考える傾向があります
「あなたの優しさは平均より上ですか? 下ですか?」と聞くと、7割以上の人が平均以上だと答える。
現実的にはありえない数字ですが、みんな自分を平均以上だと思っているのです。

あるいはサッカーの試合後、選手たちに「今日の勝利に、あなたは何%くらい貢献したと思いますか?」と聞く。
本来なら、選手全員の合計が100%になるべき質問ですね。

ところが、全員の答えを合計すると、簡単に200%くらいになってしまいます。
みんなそれだけ自分の貢献度を多めに見積もっているのです。

よくいえば前向きで、悪くいうならうぬぼれ屋。
なんでも都合のいいように解釈し、現実をポジティブな方向にゆがめて認識する。
それがポジティブ・イリュージョンという心の働きなのです。

◆現実がつらいからこそ 前向きにゆがめて認識する

では、人はなぜポジティブ・イリュージョンを使うのでしょうか。
これは「心の免疫システム」という言葉で説明可能です。

我々の生きる現実世界は、あまりにもストレスが多く、そのまま受けとめるにはきつすぎる。
そこで、ポジティブ・イリュージョンというフィルターをかけることによって、嫌なノイズをふるい落とし、つらい現実を受けとめやすいものに再構築する。
自分は悪くない、たまたま失敗しただけだと、ポジティブな「自分だまし」をくり返しながら生きている。

そして、この「自分だまし」ができなくなった究極の姿が、うつなのかもしれません。

特に、人は40歳くらいになると、ポジティブ・イリュージョンの力が弱まってしまうようです。
必要以上に現実的になり、「自分だまし」ができなくなる。

このとき大切なのは「ハートは熱く、頭は冷静に」という原則です。
手品などは好例でしょう。

ハートが熱いだけの人は、手品を見て「超能力だ!」と勘違いしてしまいます。
一方、冷静な頭しかなければ「あんなものインチキだ」で終わり、エンターテイメントを楽しめません。

つまり、手品を楽しむ我々は、冷静な頭を持ちつつ、熱いハートで「自分だまし」を行うという、かなり高度な芸当をこなしているのです。
だったら、たとえば「占いに科学的根拠はない」とわかった上で、つらいときには占いで気分を高める、という選択肢もありますよね。こうやって、日常に上手な「自分だまし」を取り入れていくことが大切なのだと思います。 (談)
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「ハートは熱く、頭は冷静に」と「ポジティブ・イリュージョン」という姿勢は、サッカー選手、特にストライカーにはとても必要な資質だと思います。絶対必要条件だと言ってもいいくらいです。

こういう資質は生まれ持っての部分も大きいとは思いますし、家庭環境の影響も大でしょう。
でも、コーチが「俺は怒鳴ることもあるけど、それをそのまま鵜呑みにするなよ。俺が言っている言葉じゃなくて、俺が何を言いたいのかを読み取れ。そして、納得できるとこだけ覚えといて、納得できないとこはさらっと流せばいい」くらいのことは、高学年になったら話してもいいかもしれません。

遠くから見ていて、強豪弱小問わず、打たれ弱い子が多いような気がしたものですから、そんなことを思いました。

以上

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