勝海舟語録『氷川清話』より抜粋
◆世の中は方針どおりにゆかず
人はよく方針というが、方針を定めてどうするのだ。およそ天下のことは、あらかじめ測り知ることができないものだ。網を張って鳥を待っていても、鳥がその上を飛んだらどうするか。われに四角な箱を造っておいて、天下の物をことごとくこれに入れようとしても、天下には円いものもあり、三角のものもある。円いものや、三角のものを捕らえて、四角な箱に入れようというのは、さてさてご苦労千万のことだ。
おのれに執一(しゅういつ)の定見を懐(いだ)き、これをもって天下を律せんとするのは、けっして王者の道ではない。鴨の足は短く、鶴のすねは長いけれども、皆それぞれ用があるのだ。反対者には、どしどし反対させておくがよい。わが行なうところが是であるなら、彼らもいつか悟るときがあるだろう。窮屈逼塞(きゅうくつひっそく)は、天地の常道ではないよ。
※窮屈逼塞 ゆとりがないこと。押し込められること。
◆自己を改革すること
行政改革ということは、よく気をつけないと弱いものいじめになるよ。おれの知っている小役人の中にも、これまで、ずいぶんひどい目にあったものもある。
全体、改革ということは、公平でなくてはいけない。そして大きいものから始めて、小さいものを後にするがよいよ。言いかえれば、改革者が一番に自分を改革するのさ。
※全体 もともと。本来。
◆党派をつくるな、子分をもつな
なんでも人間は子分のない方がいいのだ。見なさい。西郷も子分のために骨を秋風にさらしたではないか。おれの目でみると、大隈も板垣も終始自分の定見をやり通すことができないで、子分にかつぎ上げられて、ほとんど身動きもできないではないか。およそ天下に子分のないのは、おそらくこの勝安芳(かつやすよし=勝海舟本人のこと)一人だろうよ。それだから、おれは、起きようが寝ようが、しゃべろうが、黙ろうが、自由自在、気随(きずい)気ままだよ。
※気随 気ままなこと。
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