2010年5月14日金曜日

ユース出身は使えない

2010年 平成22年 5月14日 金曜日 朝日新聞 朝刊 サッカー
岡田監督対談第9回 VS.奥島孝康 利き手、構成・潮智史
奥島孝康 日本高校野球連盟会長 71歳 第14代早大総長

──現在の代表選手は高校、大学出身が多い。エリートであるはずのJクラブのユース出身選手が少ない。

岡田 確率論的なもので、Jクラブよりも高校サッカー部の数が圧倒的に多いからそうなる部分はある。これは長い期間を見ないとわからない。ただJリーグの監督をやっていたとき、アカデミー(下部組織)から上がってくる子どもに共通点があって、全力を出し切れず、淡々とやる。ここまでダッシュだぞと言っても、ちょっと手前で力を抜く。負けて悔しい、もう1回やり直したいという反骨心、バイタリティーみたいなものがない。サッカーはうまいし、センスもあるけど、そういう子が多かった。学校終わったらすぐ電車で練習に来て、また自宅に電車でさぁーと帰って、家に帰ると家族の食事は終わっていて一人で食事して。一番大事な思春期に友だち同士で遊んだり、親と食事をしない。コミュニケーション能力が落ちると思って、「週1日休ませたら強くなる」とコーチに言った。成長期には子どもたちなりの社会が必要なのでは。

奥島 友情とか仲間意識とか、互いに欠点を知り尽くして裸の付き合いをして人間的な形で育っておく世界と、そういうもののない、友情が成立しないような世界は違う。人間であることが想像力をつくり、意欲を研ぎ澄ます。学校教育の一環としてのクラブ活動の良さがそこにある。

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Jリーグの現状では、契約金も年棒も、ここ十数年は高騰しそうにない。
となれば、別に下部組織で若い才能を抱え込む必要などないことになる。
このことはJクラブの経営側もよくわかっていて、下部組織の選手を採用する際には、「もちろんいい選手は欲しいけど、それよりも問題を起こしそうな選手は絶対に入れるなよ」と釘をさされる。
もし所属する未成年の選手が、刑法犯罪、それも暴行とか窃盗とかレイプ・痴漢・盗撮あたりの事件を起こしでもされたら、とてもその責任は負えない、というわけだ。
スポンサーさがしがとても厳しい昨今のような経済状況になると、この圧力はますます強くなる。
わが子がジュニアユースやユースに入ったからと言って喜んでばかりもいられない。なぜならそれは、あなたのご子息が、将来トップチームの戦力になってくれそうだから、ではなく、ジュニアユースあるいはユースチームを運営する上で、扱いやすいタイプだと見抜かれたからかもしれないのだ。
だが考えてみれば、それもそう悪いことではない。
あなたのご子息は、『いい息子さんですよ』とのお墨付きをもらったようなものでもあるからだ。

要するにJリーガーの年棒が安いうちは、クラブも下部組織経営に本腰は入れないということ。
当たり前と言えば当たり前の話だ。
そして下部組織があろうとなかろうと、真の才能は、そこそこの環境さえ身近にあれば、必ず芽を出すということ。

これから日本における、オリンピック関連競技の若年層組織は壊滅する。
冬季種目では、すでにそれが起こっているし、夏期種目でもトラック系と体操系では、かなり深刻な事態となっている。
従来はこうした種目に流れていた人材が、今後はどっとサッカー界に流入してくることが予想される。
そうなったとき、日本のサッカー界に、ようやく真の才能がぽつりぽつりと現れ始めるに違いない。
真の才能が出てくれば、それに牽引される形で、選手全体の年棒が上昇する。
そうなったときにようやく、下部組織はまじめに才能を発掘しようとするだろう。
それまでのJ付属下部組織は、月謝の高い名門のお稽古塾を見るような、なま暖かい目で、やさしく見守ってあげるのが、経験を積んだ正しい大人の態度ではないか、と私は思う。

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