2010年5月9日日曜日

Jリーガーに「どうやったら背が伸びますか」と質問した子

今年の初め頃だったように記憶しているのだが、埼玉スタジアムで行われた少年サッカーの大会の応援席でのことである。
越谷だったか草加だったか、とにかく県西部のチームが準々決勝だか準決勝だかに進出し、その応援に、その少年団のOBらしい若いJリーガーが来ていた。確か川崎の選手だ。
その彼に、その少年団にまだ入りたてといった様子の、小学校低・中学年らしき少年が、まわりの大人にうながされて、スターを前にしたファンのようにおずおずと質問を口にした。

「どうやったら背が伸びますか」

それ聞くか? と心の中でこけた。



背が高いといえばオランダが思い浮かぶ人も少なくないだろう。

ほんの100年前まで、オランダの男性の平均身長は165センチほどで、当時の日本人男性よりも若干低いくらいだった。

それが今では男性の平均身長は180センチを優に超えるのだから、どうなっているんだか。


オランダ人が小柄だったのは、キリスト教カルバン主義オランダ改革派出身のヤーコブス・アルミニウスがカルバン主義の予定説に疑問を持ったことから生まれた神学的潮流であるアルミニウス主義(アルミニウスしゅぎ)の影響による。



カルバン主義の予定説というのは、

誰が天国に行くかは、生まれる前にすでに神様が決めてるに決まってるじゃん。偉そうなカトリックの神父の言うことなんて関係ないね。カトリック教会なんて無力さ。

という考え方。



これは対カトリック教会という面では説得力があったんだけど、その一方で、人間を怠け者にするという悪影響も大きかった。だって、はじめからすべて決まってて、そのあと何をどうしたってそれが変わらないのなら、努力なんかしたって無駄じゃんって考えるじゃん、ふつう。実際、そう考えた人もいた。それもいっぱい。ってか、みんなそう思った。その方が楽だし。



で、これじゃあいくらなんでもまずいだろってことで、アルミニウスが言い出したのが、


この世に神から生を受けた人で、何をやってもどーにもならない(全的堕落)の状態のままで放置されている人間なんて一人もいないんだ! キリストが十字架かけられたおかげで、とりあえず人類の罪はチャラになったんだから、これからの生活態度によってはどんな奴でも天国へ行けるぜ!

という説。
オランダはカトリックのスペインと対抗してたから、このカルバン主義に傾倒していったわけ。それで国を挙げて、聖書にある通りに、贅沢しないで質素オンリーな生活してたんで、栄養不足で成長が妨げられてた。
ちなみに、オランダでは成長ホルモンを与えた牛豚を食べてたからでかくなった、ってのはまったくの俗説。畜産業で成長ホルモンを使用していた時期はたしかにあるけど、その時期とオランダ人の身長が伸びた時期は重ならないし、それに成長ホルモンってのは肉には蓄積しないからね。

まあ要するに、ちゃんと栄養取ったら本来の身長になった、というだけの話。
じゃあカルシウムをたくさんとれば、背はでかくなるの? というとそれは逆効果。カルシウムは身長を伸ばさない。骨は太くするけど。
体は、取りすぎた(つまり不必要な)カルシウムは尿として排出しようとする。余計なカルシウムがあると、体の変なところで固まったりして、悪い影響があるからね。
この排出するとき、カルシウムだけをきっちり選別して、とまでは体は都合良くできていない。カルシウムと似た、他の栄養素まで排出してしまう。この一緒に排出されてしまう栄養素の方が、実は骨の成長に重要だったりするわけだ。
つまり
「牛乳をたくさん飲んでるのに背が伸びない」
のは、ちっともおかしくなくって、当たり前ってことになる。間違ってもお母さんは、成長期の子供にカルシウムサプリなど与えないように。あれは骨粗鬆症の年寄りが飲むものであって、成長期の子供が飲むものじゃない。まあ、怒りっぽくはなくなるから、そういう面で飲ませるならOK。

今の日本の食事事情なら、ふつうに三食とっていれば、摂取栄養の量や質で問題となることはない。
むしろ重要なのは、睡眠時間

身長の成長というのは、特に大腿骨の両端にある成長点で骨細胞がどれだけ増殖できるかにかかっている。
ここは一番稼働する関節でもあるから(股関節とひざ関節)、そこにできるだけ負担をかけない、つまり
・体重を掛けない
・動かさない
ことがポイントとなる。
人間の体は就寝時に、日中の活動で受けたダメージを修復するようにできている。骨の成長も、この時に行われる。脳が起きている状態(日中の状態)だと、脳からこの「修復モード」への切り替え命令が発せられない。どうしてかっていうと、またいつダメージを受けるかわからないっていう臨戦態勢なのに、修復なんてしてられないから。(正座するから背が伸びないも俗説。正座しなくても背が低い民俗はたくさんいる)
虐待下にある児童が小柄なのも、貧栄養が原因というより、むしろ貧熟睡眠、つまり常時びくびくしているために脳が修復モードへ入れず、骨細胞が十分増殖できないことに真の原因がある。
深夜帰宅した父親が、子供部屋をのぞいて子供を起こしてしまう行為も、そこで脳のモードをスイッチすることになるのでやめた方が良い。子供に身長を抜かれたくないお父さんは、逆に頻繁に子供の睡眠を妨げた方が良い。一度起こせば、また修復モードに戻る頃には朝になってる。そしてあなたは、いつまでも強くて大きな父親でいることができる。がんばって! お父さん!

日本の子供たちの平均身長の伸びが止まったというニュースが報じられたのは昨年だったろうか?
これからは逆に縮んでいくようになるかもしれない。もしそうなったら、私はその理由として睡眠時間を疑う。

「どうやったら背が伸びますか」
と子供にたずねられたら
「早寝遅起きすれば伸びるよ」
と教えてあげて欲しい。
昔から言われている『寝る子は育つ』は、俗説ではないのだ。

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