2010年8月11日水曜日

お盆特集 恐怖は興奮を呼ぶのでブレーキにはなりません。あしからず。

毎年今くらいに時期になると、戦後○○年だとか、戦没者うんぬんだとか、原爆がどうだとか、空襲がどうだとか、そういうたぐいのテレビ番組やら新聞記事だとかがあふれる。本当にあふれる。あふれ過ぎてどこに何があるかわからなくなるくらいだ。

こうした報道(?)の目的は当初、戦争の悲惨さを蘇らせることによって、二度とこうした事態を招かないようにしたい、ということであった、のかもしれない。まあ実際には、自分の贖罪意識を軽減するためとか、自分(自組織、自社)の責任を転嫁するためとか、そのあたりの「人間くさい」目的が隠れていたような気もするが、まあそのへんは想像の域を出ない、ということにしておこう。

まあちょっと考えればわかることなのだが、恐怖というのはヒトの行動を制限しない。
ヒトはお金を払ってお化け屋敷に入ったり、法律違反や事故のリスクがあるとわかっているのに心霊スポットへ出向いたり、登山で危険なルートをあえて選んだり、一般道で暴走行為をしたりする。
これらは恐怖の実態が「興奮」であることに起因している。
そして「興奮」は「快感」と表裏一体の関係にある。
つまり「恐怖」は「興奮」を呼び「快感」を生むのだ。

スプラッター映画や、惨殺死体の写真、凄惨な事故現場写真、これらを見たときの感情の揺れ動きも、実は「恐怖」→「興奮」→「快感」という流れに沿って変化していっている。

どうしてこうなるかというと、簡単に言えば、人間のホルモン分泌の仕組みが「自己防衛」を唯一最大の目的として進化してきたからだ。
感覚器官から送られてくる信号が、「平常状態」から「異常状態」へと変化したとき、それは自分の周囲の環境が通常状態ではなくなっているからだ、と脳は反応する。「通常状態=安全状態」であるから、「異常状態」とは「危険状態」を意味している、と脳は判断する。
その瞬間に、脳は「自己防衛体制」へ移行する。
感覚を鋭敏にし、筋力を高め、失血に備える。あるいは攻撃することで防御しなければならないかもしれない。その為の準備もする。
これらのイベントは全て、アドレナリンやドーパミンというホルモン(化学物質)分泌によって開始され、展開される。
これらの化学物質が分泌されると、動物は興奮状態になる。ヒトも同じだ。アドレナリンやドーパミンで興奮する。
覚醒剤の成分であるアンフェタミンとかエフェドリンというのも、ようはこのアドレナリンやドーパミンが非通常状態になるように作用することによって、人間に快感を与えるのだ。

つまり「恐怖」や「痛さ」というのは、脳にとっては「快感」を生む「興奮」への道のひとつでしかない。
よって戦闘の壮絶さや、戦災の悲惨さを繰り返し見せることは、「快感期待」の強化でしかない(脳にとっては)。
もし誰かの復讐心や優越感を満たすためであったとしても、それは結局、「興奮」→「快感」の反応に拠って満足しているのだから、「快感期待」を強化しているという意味では同じである。

結論を言うと、いくらどれだけ「恐怖」を煽っても、植え付けても、ヒトによって戦争に陥ってしまうリスクの軽減にはならない、ということだ。

もしも国家や社会が、戦争が起きるような事態を本気で避けたいと思うなら、「戦争は損である」ことを証明し、国民に伝え、理解させた方がいい。
「大切なかけがえのない命が失われるから損」なんていう小学生の作文みたいなきれい事では駄目だ。毎日、殺人や自殺や事故や病で多くの「大切なかけがえのない命」が消えているが、それを「損」だと受け取っている人はいない。親族は「悲しい」かもしれないが、それも一時的限定的なものであるし、そもそも「悲しみ」は「損」ではない。「悲しみ」を味わいたいがために、小説や映画に対価を支払う人だって何百万人といるのだから。

「損」は、明確に、自分にとっての「損」でなければ、人は「損」として受けとめない。
戦争になると、いくら損をするのか。
どういうケースだと、どんな損を被るのか。
過去の戦争では、誰がどれくらい損をしたのか。
そのあたりのことを、できるだけ正確に、論理的にも説得力を持って、国民に伝えること以外に、ヒトを戦争から遠ざけることはできない。

ただ残念なことにこれまでの戦争は、生き残ったヒトにとっては「得」となってきた。
だからこそ戦争はなくならず、延々と繰り返されてきた。

むしろこれからは、「得な戦争」と「損な戦争」があることを知ることで、それぞれが自分にとって「損な戦争」を遠ざけるように判断することが、本当の戦闘の発生を先延ばしすることになるだろう。

最後にもう一度。
「恐怖」や「悲惨さ」を植え付けることは「興奮期待」を高める作用につながる。
怖いほどジェットコースターは流行り、残酷な動画が閲覧客を集め、悲惨な物語がロングセラーになるのは、それらが「脳」にとって「快感」を生んでくれくれるからだ。
戦争を本当に避けたいのなら、戦争によってどれだけ損をし、どれだけ交渉で不利になったか、を伝えなければ実体のある効果は望めない。

と、私は確信している。

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