2010年11月23日火曜日

就活に見る戦略的互恵関係

就活に見る戦略的互恵関係

戦略的互恵関係というのは、本心からというわけではないけど、お互いに得になるんだから手を結びましょう、というような関係のことです。
でも国際社会で実際にこの関係が成立するのは、「お互いに得になるんだから」というケースよりも、「お互いに損を避けるために」というケースの時の方が圧倒的に多いです。
人間は、得になることよりも、損を避けることの方が動機になりやすい心理傾向を持った生物だからです。

今年の「大卒内定状況が芳(かんば)しくない」という報道を目にします。
何十社にも応募したが、面接できたのは数社、内定はまだない、というような学生の話も耳にします。
でもまあ、多少メディアリテラシーのある人なら、後段は前段の主張の「証拠」としての「実例」として提示されたインタビューなので、実際の多数がこうだということではないだろうことは容易に想像できます。むしろ、珍しいからニュースに取り上げられたと考えるべきでしょう。

そもそもの話を考えてみましょう。
現在、就職活動で苦労している、うまくいっていない、思うような結果が得られない、というのは採用する側、採用される側、双方にとって「損」をしている状況です。
採用する側にしてみれば、8~10年後に主力となってくれる人材を確保できなければ、企業の存続が危うくなるのは確実です。その一方で、戦力どころか負担になる、足をひっぱるような人材をうっかり採用してしまったら、危うくなるどころか崩壊まっしぐら間違いなしです。

採用される側にしてみれば、あれこれ言うまでもなく、就職は自分の人生に直結する大問題です。

就職状況が厳しいものであることは、もう十数年前からすでに常識となっています。いえ、「厳しい」というよりも「真剣勝負の場になった」ということで、むしろこれが本来の正しい姿なのだと言えるでしょう。企業にとっても、学生にとっても、将来に直結するもっとも重要な決断のひとつなのですから。

今、就職活動で苦労しているという学生は、己の能力の低さを大きく記したボードを首からぶらさげているようなものです。
数年後に確実にやってくる将来のための準備をまったくできない人材だ、という証だからです。
中学生の時に気づいた子は、大学受験のために高校を選び、その高校受験のための準備したことでしょう。
自分は大学受験でうまくいきそうもないタイプだと判断すれば、芸能界を目指したり、職人の世界へ踏み込んだりする子もいます。
こういう世界は年功序列じゃなくて、先輩後輩の縦社会ですから、早く入った方が「先輩」「兄さん」となります。伊集院光さんは、見てくれも、頭もよくない自分がこのままみんなと同じ土俵で競っていても勝てる日は来ない、来るわけがない、と思って、まだ高校生の時に近所の落語家の家のドアをノックしたのだそうです。

受験勉強がいやなら、無理に受験勉強のための勉強をすることはないんです。でも何かはしないと、せっかく歴史も文化もインフラも豊かな日本に生まれることができたのに生きている意味がありません。成人する日は、生きている限り確実にやってくるのですから。

受験勉強に向いていると思っていたのに、結果として、もし大学生ランキングがあったら上から1万番目、とかになる学生にしかなれなかったとします。
「ぼくの(わたしの)、人間性とやる気を見てください」とアピールしても、1万番目からの声は、採用担当者にまで届くことはありません。1メートル先ならささやき声でも聞こえますけど、1万メートル先からの声は、拡声器を使っても相当に厳しいです。

大学入試が終了した時点で、自分が何番目になりうるかという予測は、ふつうの頭を持っているならできないことではありません。間違えてはいけないのは、これはあなた個人の能力の順位ではない、ということです。あくまで「大学新卒」としての順番です。序列といってもいいかもしれません。アイウエオ順みたいなもので、決まってしまったら、入れ替わることはないような順番です。

ならどうするのか、その答えは簡単。

違う列に並び直すしかありません。よく資格を取れというのは、こういう意味からなんです。別に資格を取ったから、同じ列での順位があがるとかそういうことではなくて、違う列に並び直せるよということなんです。資格を取るのに払う代償(努力、時間、費用)が大きいほど、新しい列に並んでいる人(ライバル)は少なくなります。つまり、自分の順位が前になって、自分の声もよく採用担当者に届くようになるということなんです。
注意しなくてはならないのは、先にちゃんと採用担当者がいる列に並ぶ、ということ。あまりに珍妙な資格の列に並んでしまうと、順位がいくら前になっても、その先に採用担当者がひとりもいないなんてことになる場合がありますから、その辺は気をつけましょう。

さてでは、今現在、就職活動がうまくいっていない学生はどうすればいいのでしょう。

これも同じことです。

長い長い列の中段以降でじりじりしていても、あなたの番までは回ってきません。
何十と列に並ぼうが、何百と列に並ぼうが、あなたの前に大勢が並んでいる状況が変わらない限り、あなたの声は採用担当者まで届かないのですから、結果は同じことの繰り返しになります。

どこの列の長さが短いのかは、誰も教えてはくれません。
また、その答えもありません。
列は、状況や環境に応じて刻々と変化しているからです。

ハローワークや就職情報サイトを経由してもたらされる情報にはタイムラグがある上に、その情報はあなたにだけもたらされるのではないということも、理解する必要があります。「ここが短い」と知れてしまった瞬間に皆が殺到し、そこにはまた長い長い列ができてしまうのです。

さて、ではどうしましょうか?

第一歩は、情報を察知するアンテナをもう一度整備して、感度を最大限に発揮させることです。
では、情報を察知するアンテナは、どこに行けば手にはいるのか。
実は、あなたはすでにそれを持っています。いえ、こう言いかえましょう。それぞれの人が持っている自分のアンテナが拾った波長の情報こそが、それぞれの人にピッタリ合った情報なのです、と。

あなたの部屋の中をよく見回してみてください。

何がありますか?

その中で、一番よく手にしている物が、あなたにもっとも近い世界の象徴です。一番大事にしている物が、あなたがもっともあこがれている世界の象徴なのです。子供の頃から、ずうっとそばにあったものがあったりしたら、それこそがあなたの象徴なのです。
そこを探求の入口にして、あなたのアンテナを集中させて、あなたにピッタリ合った情報を収集しましょう。
まずはそこからです。

現代社会では、何かが存在すれば、それに携わる仕事も存在しています。仕事が存在すれば、それに関係する企業がいくつも存在しています。企業があれば、そこで働いている人も必ず存在しているんです。そして、人が存在していれば、必ず入れ替わりもあるんです。

欲しい人材が応募してこないのは、企業側に原因があります。
内定がもらえないのは、学生側に原因があります。
これは両者にとって「損」な状況なのです。
ここは「戦略的」に、つまり(現時点での)本心はひとまず置いておいて、損を避けるためにはどうすればいいのかを考えてみてはいかがでしょう。

だいたいの話、就職活動で苦労して、内定をもらえないと嘆いているのは、これまで教科書や参考書をまともに開いたことのないような人たちなんです。そうやってこれまで生きてきたのに、突然教科書や参考書通りの「就職活動」をしても、うまくいくわけがないじゃないですか。高校受験や大学受験だって、何年間もかけて準備するのに、なんでその最終形である就職活動ではろくに準備もしないで、それでいて「厳しい、厳しい」と文句を言うのでしょう? 矛盾してますよね。

逃げないでちゃんと考えてみて欲しいんです。
求人状況が「厳しい」から内定をもらえないんじゃなくて、あなたが「厳しくない」から内定をもらえないんじゃないか、と。

国を超えて取引するのが当たり前の時代には、人材だって国を超えるのは当たり前です。
中国で人材募集をしたり、外国人が日本で求職したりするのが当たり前の世の中です。
家賃の高い東京を離れて、家賃の安いどこかでひとり暮らしを始めて見るのもきっと楽しいと思うんですけど、いかがでしょうか。
それに、知り合いのいない土地でひとり暮らしをすると、さみしいからすぐに彼氏彼女ができます。自然とそういうオーラが発せられるのか、ハードルが下がるのか、異性への見方が広がるのか、友人知人や過去とのしがらみがなくなるのか、おそらくはそうしたことすべてが理由なのでしょうが、とにかくそういうケースが多いです。そしてすぐ結婚して子供を作ってしまいます。キャンドルがともるような家庭が欲しくなるのでしょうね。

採用する側の担当者になったつもりで、一番採用したくないタイプはどんな人なのか考えてみれば、おのずと何をすべきなのかがわかってきます。
サッカーチームの監督になったつもりで、どんな選手を試合で使うかを考えてみるのと一緒です。

何社受けても内定がひとつももらえないと嘆くだけの人が採用されないのは、試合に出してくれとわめくだけで努力や工夫をしない選手が試合で使われないのと同じ理由です。
あるいは自分と同じポジションにはすでに大物レギュラーがいるチームで、ただそのチームが有名だからとこだわりつづけている間に自分の選手としてのピークを越えてしまったら? すごくもったいないとは思いませんか? いやもったいないとかいうよりもそれ以前に、そんなのは楽しくないです。絶対に。

受験では、偏差値という指標と受験日があるおかげで、受からないところを何十校も併願するような事態にはならないですんでいます。
就職活動ではそれに類する物がないために、何十社もエントリーする「愚行」が可能となっています。
何十人へも「愛してます。結婚してください」とラブレター送るような相手に、誰が本気で向き合うというのでしょう?
あるいはみんなのアイドルを待ち伏せして、「愛してます。付き合ってください」とマジ顔で花束を渡したら、確実に通報されます。「いきなり何? あんた誰? 気持ち悪い。不気味」でしかないからです(「第一印象」で向こうがあなたに惹かれた場合は除く、ですが)。

受験勉強や資格取得というもののほとんどは、本心から望んでではなく、損をしないためになされるものです。
企業が欲しいのは、そういう判断と自制ができる人材です。
嫌だからやらない、したくないからしない、そういう人は願い下げです。
かといって、言われたことならなんでもやる。あるいは言われたことだけしかしない。そういう人材もできれば避けたいのです。

でもこれって、学生の側があそこはブラック(企業)だから嫌だとかいうのと一緒のことなんだって考えれば、「まあ当然だよな」と納得できることではないでしょうか(ブラック企業に対する、ブラック新卒みたいなものですから)。

就職活動がどうもうまくいかないなあとお悩みの学生は、ここで少し立ち止まって、ひとつ戦略的に、就職プランを再構築してみるのも一考ではないか、と私は思います。
もしあなたが子供の頃、フェラーリのオーナーになりたいなあなんて思っていたとしたら、高額な給与を得られる仕事や起業して成功することを狙うよりも、フェラーリの並行輸入業者や中古車ディーラーやブローカー、あるいはフェラーリのパーツショップに就職した方が早くて確実かも知れません。福利厚生は整っていないでしょうが、フェラーリのそばで仕事ができることは確かです。どんなにエコエコな世の中になったとしても、この世からフェラーリがなくなることはありません。日本の中古フェラーリを、中国やブラジルやインドネシアに輸出するビジネスなんてのがあったりしたら、かなり面白そうじゃないですか? そうは思いませんか?
女性なら、芸能プロダクションなんかの、経理や事務を志望してみるなんてのはどうでしょう。制作をやりたいという応募は山のようにあるでしょうが、数字を扱う方面では、そんなに人気の業界じゃあないかもしれません。でも、芸能界のお金の話や、所属のタレントさんに詳しくなれることは確かです。それにこの手の業界ってのは、入っちゃったもん勝ち、みたいなとこがありますから、“身内に”なったあとでなら、また別の展開も大いに起こりえます。

毎年毎年、東大早大慶大一橋上智東工大を合算すれば2万3千人前後の新卒が誕生します。
みんな、子供の頃からずうっと競争してきた人たちです。
もしあなたが、その手の競争が苦手なタイプなのだとしたら、ちょっと違う道を探してみた方がいいと、私は確信してます。

最後にもう一言。
就職活動がうまくいかなかったことくらいで、間違っても自殺なんかしたりしないように。
自殺するくらいなら、寺か修道会にでも入るか、遠洋漁業船に乗ってください。
あなたが知っていると思っていたはずの世界の本当の広さ、深さを実感できること請け合いです。

自殺するには、この世界はもったいなさ過ぎます。
いずれ、嫌でもこの世界とお別れする瞬間が来るのですから、
その時までは、この世界を楽しみましょうよ。

4年後にはブラジルワールドカップですよ。
どんなブラジル代表が見られるのか、
あるいはまたマラドーナがアルゼンチンの監督になってて、もしかしたら決勝でブラジル×アルゼンチン戦が観られるかもしれないんですよ。

それまでは、どんなに気に入らないことがあったとしても、戦略的互恵関係の精神で、その気に入らないことと付き合っていきましょう。


あなたを待っているのは明日の世界かもしれないんですから。



おわり

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