2010年7月22日木曜日

今年の夏は熱中症のリスクが高い

スポーツ活動時の熱中症による死亡数    
-スポーツ種目別頻度ー 
(1990~1999年)(日本体育協会熱中症予防ガイドブックより)
もう10~20年前の古いデータだが、それでもサッカーが熱中症リスクの高い種目である傾向は読み取れる。
面白いのは、ラグビーとアメリカンフットボール、野球とソフトボール、ハイキング(遠足)と行進訓練の頻度差だ。2倍から9倍も違う。この差は、プレーヤーがその競技にかける意気込みの違いによって生じているように思える。言い換えると、「自発的にがんばる」競技ほど熱中症になるリスクは高い、ということだ。


1994年7月(熊谷)
1994年8月(熊谷)
2010年7月(熊谷)
1994年はアメリカワールドカップのあった、暑い夏だった。
そして今年も、ワールドカップと暑い夏が重なりそうだ。

10代で男子の死亡者数が圧倒的な理由は、間違いなく「運動・スポーツ」である。
データが示しているのは、スポーツでマジメにがんばる子ほど熱中症のリスクは高くなるという厳然たる事実だ。
私が怖いと思うのは、熱中症で死亡する例というのが、ほぼ例外なく「これまではこんなことなかった」という成功体験に裏付けされた形で起きていることだ。去年も大丈夫だった、もう何年も同じことをしてきた、昨日はなんともなかった、さっきまでは元気だった、少し休めば大丈夫だと思った、そして「本人は大丈夫だと言っていた」。
これはその通りなのだ。まわりの大人も、そして本人も、「大丈夫だ」と思ったのだ。だが事故は起きてしまった。
そしてこれは熱中症としての統計には表れてこないが、熱中症に近い状態でプレーをしていると、思わぬ大けがにつながりやすい。判断や反応が鈍くなるために、考えられないような接触・衝突をしたり、変な転び方やひねり方、あるいはもろに頭から落ちたりする。これらは熱中症としてはカウントされないが、子供の健康にとって非常に危険な要素であることは確かだ。
私がさらに危険だと感じているのは、こうした熱中症に関連する事故に対して、指導者らの受け取っている責任感が、他の事故と比べて希薄なことだ。
熱中症でお子さんを亡くされた親御さんの裁判でしばしば聞かれるのは、「そこまでがんばったのは本人であって、私が無理強いしたわけではない。たくさんの部員を管理する中で、個人の微妙な変化を完璧に判断するのは医師でもない私には不可能だった。私は常に、異常を感じたら休むように指導していた。実際、これまでこうした事故を起こしたことはない」というような、被告である指導者側の抗弁だ。要するに、本人の責任も大きいでしょ、と言っているのだ。
私もその通りだと思う。
究極的には、自分のことは自分で責任を持つしかない。
生物は自分の身を、自分で守らなければならないのだ。
これに例外はない。子供であってもそれは同じだと私は思っている。
炎天下で100本ダッシュを命じられたら、それを全力でこなそうとしてはいけない。
炎天下で3連戦させられたら、すべての試合でベストを尽くそうと思ってはいけない。
炎天下で練習後に5キロ走をかせられたら、丸々5キロを走ってはいけない。
子供はこれがわからない。
サボってはダメだ。常に全力を尽くすことこそが練習なのだ。
確かにその通りだ。
だが今年の夏は、サッカー少年にとって危険な夏になりそうなのだ。
ワールドカップから刺激を受け、そして去年の夏は涼しかった。
2009年7月(熊谷)
2009年8月(熊谷)
子供たち自身の中にある「去年の経験」が成功体験となって、今年のリスクを関知するセンサーを甘くしてしまう可能性がおおいにある。ワールドカップから受けた刺激が、なお一層、子供たちをがんばらせてしまう可能性もおおいにある。

どうかお父さんからご自分の息子さんたちに(子供年代では、男子の熱中症死亡リスクが圧倒的に高いからであって、女子はどうでもいいということではありませんのであしからず)、どういう状態になったら、それは異常ということなのかを、教えておいてあげて欲しい。
ほぼ全ての子供は、異常な状態を知らないからだ。生きてきた時間がまだ短く、人生経験が少ないのだから当たり前だ。そこをおぎなってあげて欲しい。
つまづいたり、よろけたり、声が遠くに聞こえる感じがしたり、眠くなったり、というようなことが続いたら、脱水や異常体温の可能性がある。そういう感じがしたら、自分からピッチを出るか、それが難しかったら強引にタックルして、自分から転倒して、しばらく寝ていろと教えてあげて欲しい。いやもっと手っ取り早く、靴ひもを結び直すふりをして休め。そしてヒモをちゃんと結び直せて、またすっと立ち上がることが出来たなら、まだ大丈夫だ。そこで手元がおぼつかなかったり、立ちくらみをしたりしたら、もう無理はしないでプレーはやめるべきだ。と伝えて欲しい。
チームのスタッフは、あなたの息子さんを守ってはくれない。
最悪の事態になって、訴訟になったらそれがはっきりする。
彼らは絶対に「申し訳ありませんでした。全ては私の責任です」とは謝らない。
裁判が終われば、また何事もなかったかのように子供たちに接し、自分たちが殺した子供の親が練習場に顔を見せれば、露骨に迷惑そうな表情を浮かべる。あるいは逃げ回る。
全ての指導者がこういう人だという気は毛頭ないが、そういう人がいることも、悲しい事実なのだ。
少年サッカーでは、まだこれほどまでにひどい指導者というのには会ったことはない。
しかし、全日本少年サッカー大会への親の入れ込みようなどを知っていくと、いずれ勝利至上主義の少年サッカー指導者が現れないとも限らない。
そういう、指導者の仮面を被った悪魔にわが子を殺されないためにも、どうかお父さんは息子さんに「がんばるってことには、賢さも含まれるんだぞ。言われるがまま考えないで無理をすることは、がんばるとは違うんだ」と教えて上げてください。お願いします。
特に、今年の夏の間だけでも。
それくらい、今年の夏は、少年サッカー選手にとって危険な夏になるような気がするのです。
私の杞憂で終わればいいのですが。

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